とうふのぶらり美術鑑賞日記

ぶらりと訪れた美術館、展覧会についてのブログです。

岡本太郎美術館 常設展『太郎さんの心の中を楽しもう』 、企画展『太郎写真曼荼羅』 に行ってきました。②

企画展『太郎写真曼荼羅

 

企画展『太郎写真曼荼羅』は、岡本太郎の写真集『太郎写真曼荼羅』を、写真家ホンマタカシが再構成するという趣旨の写真展でした。

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岡本太郎は雑誌連載の取材で日本各地を訪問、文章の挿図のために自ら写真を撮影されていたそうです。それら写真は日本の祭礼や儀式などを扱ったものがメインで、記録といった側面が強いそうなのですが、本展でホンマタカシはいわゆるスナップショットといった、岡本太郎が思わず撮ってしまったであろう写真を中心に展示をしています。

 

取材の合間に何気なくシャターを切った「なんてことない風景」。その中に岡本太郎の世界の魅力を見出すということだそうなのですが、個人的にはとても楽しめました。1950年代後半頃に撮られた作品が多く、少し昔の日常の風景を、岡本太郎の目を通して見る感覚。リアルなドキュメンタリーのような展示でしたね!

 

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右は取材先で出会った女性の写真。女性のポートレートがたくさん展示されていて、ホンマタカシいわく、岡本太郎の女性の好みが分かるので必見とのことでした。確かに旅先で好みの女性に出会ったら、話しかける口実に写真を撮ってしまうかもですね!

 

左は松江に向かう道路に立つ岡本太郎岡本太郎自身が写った写真も多く展示されてます。岡本太郎が居て、そこでなんらかのコトが起こり、誰かがシャッターを切れば、それも岡本太郎の写真であるという捉え方だそうです。当時の風景に自然体の岡本太郎の姿を見ることができ、とても新鮮ですね!

 

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蛇を見つめる子供。沖縄で撮影された写真なのでハブなのでしょうか!?岡本太郎は写真家・土門拳との対談の中で、「偶然を偶然に撮影して必然」という発言をされたそうなのですが、その言葉がぴったり当てはまるような、印象的な作品ですね!偶然にしか起こりえないシチュエーションを、偶然に撮影し、必然的に作品が出来あがる…、深いですね!

 

写真を通じ、岡本太郎の視線を追体験する素晴らしい展示でした!

 

オリジナルタイトルを考えてミる

話は少し戻るのですが、常設展でおもしろい企画があったので紹介いたします。

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あえて作品のタイトルを載せず、オリジナルのタイトルを考えながら、作品を鑑賞するというものだったのですが、こちら、展示の終わりに考えたタイトルを紙に書き、共有できるスペースが設けられていました。

 

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説明文の漢字に読み仮名がふってあることから、子供に向けた企画なのだと思うのですが、独創的なタイトルをたくさん見ることができて楽しかったですね!いくつか紹介したいと思います。

 

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まずは唐突にあらわれる左下のネギが印象的なこの作品、子供たちはどのような作品名をつけたのでしょうか。

 

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やはり歯車や人が描かれていることから、「機会」や「工場」といった印象に結びつく作品名が多いかったですね。中には『労働』といったプロレタリアートっぽい作品名もありました。 そんな中、ひときわ印象的だったのが『深谷市民の苦悩』です。やはりネギの印象は外せなかったのですね。昔ながらの農法にこだわる深谷のネギ農家にとって、迫り来る農業の工業化は恐怖だったのかもしれません。

 

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2枚目はこちら、シュールレアリスムを感じさせる作品。

 

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『うでずもうで、まけた。』なるほど。確かに腕相撲の真剣勝負に負けた後は、このような姿になってしまうかもしれませんね。続いて『ワクチンの副反応』。こちらは時事を取り入れてきました。確かに僕も、二回目を摂取した次の日は、こんな感じになってました。

 

もはや大喜利になってるような作品もたくさんありましたが、みんな自由な発想で作品名を考えてて、とても面白かったですね!展示の最後に大いに楽しませていただきました。

 

美味しい蕎麦を食べて帰りました

向ヶ丘遊園駅近くにある蕎麦屋兼居酒屋のようなお店で、蕎麦を食べて帰りました。

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『蕎麦×酒肴 トタン屋本舗 登利武(とりぶ)』さん。趣きのある店構えで、いい感じですね!小ぢんまりとした店内にはフレンドリーな雰囲気が漂い、とても居心地が良かったです。

 

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「旨鶏つけ蕎麦 醤油」、コシのある蕎麦で美味しかったです! 蕎麦のほかにも、鶏を使った美味しそうな一品料理がたくさんあったので、今度は居酒屋メインで、また来たいと思いましたね!

 

この週末も楽しい展示に、美味しい食事が楽しめ、充実したものとなりました!

秋は気候もいいし、外に出るのに最適の季節です。

岡本太郎美術館 常設展『太郎さんの心の中を楽しもう』 、企画展『太郎写真曼荼羅』 に行ってきました。①

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川崎市岡本太郎美術館の常設展『太郎さんの心の中を楽しもう』と、企画展『太郎写真曼荼羅』を観に行ってきました。

 

向ヶ丘遊園駅から散歩で岡本太郎美術館まで 

岡本太郎美術館は、川崎市内最大の公園である生田緑地内にあり、小田急線の向ヶ丘遊園駅から歩いてむかいます。だいたい生田緑地まで徒歩15分、岡本美術館までは徒歩25分ぐらいでしょうか。

 

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向ヶ丘遊園駅の外観は風情がありますね!これは小田急線が「ナチュラル・レトロモダン」をコンセプトに、1927年の開業時からこの駅に残るマンサードスタイルと呼ばれる腰折れ屋根を残す形で、2020年にリニューアルしたものだそうです。画一的になりがちな他の駅とは違い、個性的でとてもいいですね。

 

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歩くこと15分、生田緑地に着きました。

 

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今日は気持ちの良い秋晴れということもあり、ピクニックに来ている人がたくさんいました。昆虫採集している親子も結構いましたね。新宿から電車で20分ほどで、本格的に自然に触れ合える場所があるのはいいですね。いつ来ても癒されます。

 

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生田緑地をさらに進み、岡本太郎美術館に到着。美術館の左奥に見えるのは『母の塔』という岡本太郎美術館のシンボルタワーです。高さが30メートルあり、近くで見るとなかなかの迫力です。

 

はじめての岡本太郎美術館

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美術鑑賞が趣味の自分なのですが、実は岡本太郎についてはあまり知らなかったりします。有名な大阪万博の『太陽の塔』は当然知っているのですが、あと馴染みのある作品といえば、渋谷駅にある巨大壁画の『明日の神話』くらい。これは毎朝、渋谷での乗り換えの時に観ていました。

あまりに有名なアーティストであった為、逆に素通りしてしまっていたというか…。なので今回はあらためて岡本太郎に触れる、とても良いきっかけとなりました。特に絵画から立体、インテリアまで幅広い作品を展示している常設展は見ごたえがありました。

 

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僕のイメージにある岡本太郎らしい作品。大胆な色使いとタッチの中に、どこかチャーミングな造形が描かれています。この力強い感じ、やはり「芸術は爆発だ!」といった感じですね!

 

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立体作品もたくさん展示されていました。左は『動物』という、かわいいような、そうでないような、絶妙な表情が個人的にヒットの作品です。岡本太郎は『動物』で本格的に彫刻を始めたらしく、長野県の白鳥園というところにコンクリート製のその時の作品があるそうです。いつか観に行ってみたいですね。

 

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インテリア作品もたくさん制作した岡本太郎。写真の椅子の作品は実際に座ることがでできます。岡本太郎美術館の懐の深さを感じますね!先ほどの『動物』がやさしく座ることをお願いしてます。

 

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岡本太郎のデザインしたオリンピック参加記念メダル。64年の東京オリンピック以外にも、74年の冬季札幌オリンピック、72年のミュンヘンオリンピックのものも制作されたそうです。

近鉄バファローズのロゴも岡本太郎が制作したものだそうです!知りませんでした。子供の頃、この帽子をかぶった子供やおじさんをよく見かけましたね。今はもうなくなっちゃった球団なので、ノスタルジーを感じます。

 

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作品以外にも年表などがあり、岡本太郎の生涯を知ることができます。また、右の写真は岡本太郎の両親のパネルなのですが、漫画家であった父の一平、歌人であった母かの子、二人の活動を知ることのできる展示もあります。

 

常設展は順路が設定されておらず、自由に会場を歩くスタイルだったのですが、それがテーマの『太郎さんの心の中を楽しもう』と合致していて良かったです。岡本太郎の心の中を探検しているような感覚で、とても楽しかったですね。

 

岡本太郎美術館 常設展『太郎さんの心の中を楽しもう』 、企画展『太郎写真曼荼羅』 に行ってきました。②へつづく

世田谷美術館 『塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記』 に行ってきました。

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成城学園駅から散歩で世田谷美術館まで

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世田谷美術館で開催されている『塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記』 を観に行ってきました。

 

世田谷美術館小田急線の千歳船橋駅と東急田園都市線の用賀駅の中間くらいにあるのですが、せっかくなので降り立ったことのない小田急線の成城学園前駅から、散歩がてら歩いて行くことにしました。 この日はどんよりとした空模様で散歩日和とは言い難かったのですが、雨が降らなかったので良かったです。

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成城六間通りを東宝スタジオを横目にひたすら歩き、世田谷美術館のある砧公園に向かいます。 はじめに調べておけばいいものの、ノリでルートを決めたため意外に遠く、40分くらい歩きました。

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世田谷美術館に到着。

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チケットカウンターを抜けるとシスコさんがお出迎えしてくれます。 この着物を着たシスコさん(顔写真が貼られたマネキン)が唐突に現れるので少しビックリしてしまいました。

 

 

素朴画の画家 塔本シスコ

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塔本シスコ(1913〜2005)は、熊本県出身の日本の素朴画の画家です。 独自のタッチで鮮やかに描かれた自由な画風は、同じく素朴画の山下清の作品に通じるものを感じます。

 

実はこの展示に行くまで塔本シスコという画家を全く知らなかったのですが、感想はというと、めちゃくちゃ良かったです。

 

副題に「人生絵日記」とあるように、日常の出来事や、幼少期の思い出、家族などをモチーフとした絵が多く、観終わった時には一人の女性の半生を描いたドラマを観たような感覚となりました。

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自由な世界を表現

 

塔本シスコさんは生後間もなく、養女となり、養父の抱いていたサンフランシスコへの移住の夢から、シスコと名付けられます。小学4年生の時に稼業が傾き、農作業や子守のために退学。その後、いくつかの奉公先で働き、20歳の時に結婚します。

 

結婚後、一男一女を得て、子供たちと出かけスケッチを楽しむ生活を過ごします。ところが59年に夫が事故で突然亡くなり、深い悲しみから、48歳の時に脳溢血で倒れてしまいます。このリハビリテーションのために、石を掘り始めたシスコさんは、53歳の時に本格的に大きなキャンバスに油絵を描くようになります。少しずつ元気を取り戻したシスコさんは、その後、91歳でこの世を去るまで、絵筆を離すことはありませんでした。

 

小学校を中退したシスコさんは、美術教育と縁をもつことはありませんでした。50代から独学で絵を始めたからこそ、形式にとらわれることなく、自身の自由な世界を描くことができたのかもしれません。

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絵日記のように描かれる作品

 

シスコさんは日常の出来事や身の回りのものを作品にすることが多く、展覧会では絵日記を見るようにシスコさんの人生に触れることができます。個人的には家族と行った公園や旅行などを描いた作品に、印象的なものが多かったです。

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上は夕食後にくつろぐ娘夫婦の様子が描かれた作品と、家族で淡路島へ行った時の作品。娘夫婦は家族の自然な姿が、淡路島は楽しそう姿が描かれています。

 

作品も次第に発表の機会が増え、順風満帆なシスコさんでしたが、悲劇が訪れます。 96年に左上の作品で描かれた娘さんが病気で亡くなられたのです。 落ち込み、部屋でふさぎ込むシスコさんでしたが、息子さんがコスモスを見に、シスコさんを連れ出します。 それが下のコスモス畑を描いた作品の制作に繋がり、絵を描くことでシスコさんは次第に元気を取り戻していきました。

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そういったエピソードもあり、この作品には家族の絆や愛情を感じ、とても心を打たれました。 アラフォーになり、家族の繋がりを感じるような作品に弱くなりましたね…。

 

また、まさに絵日記のように文章が添えられた作品がたくさんあるのですが、その文章ひとつひとつがとても素直で魅力的です。下の絵は、88歳の誕生日に二人の孫から貰ったプレゼントを描いた作品ですが、このような文章が添えられています。

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「ミアからもらった大きな花ビンと研作君からもらったカサブランカや色々な花です。 シスコ88才のたんじょうびのプレゼントですよう。 ほんとうにありがとう。うれしいよう」

 

変に難しい言葉を使ったりしないからなのか、まっすぐに喜びが伝わってきて、ジーンとしました。このような文章が添えられた作品がたくさんあり、いちいちジーンと、言葉にできない感動をしてしまいました。

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展覧会を見終え、外に出ると、曇っていた空から青空がのぞいていました。

 

絵画から立体まで約200点にも及ぶ作品が展示されとても見応えがありました。先にも述べましたが、シスコさんの半生を描いたドラマを観たような感覚です。とても充実したものでした。

 

とても良い休日を過ごすことができました。オススメの展覧会です。